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今はなき場所に思いを馳せる人へ 『GAGARINE/ガガーリン』に詰まった夢(リアルサウンド)

『GAGARINE/ガガーリン』(c)2020 Haut et Court - France 3 CINEMA

今はなき場所に思いを馳せる人へ 『GAGARINE/ガガーリン』に詰まった夢(リアルサウンド)

リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、先日、通っていた保育園の跡地を見て悲しくなった大和田が『GAGARINE/ガガーリン』をプッシュします。【写真】シャーリーズ・セロン、トム・ハーディに「罰金だ!」

『GAGARINE/ガガーリン』

タイトルにある「ガガーリン」とは、「地球は青かった」の言葉で有名な宇宙飛行士ガガーリンにちなんだ名前を持つ「ガガーリン団地」が由来です。2019年にパリ五輪のために取り壊された「ガガーリン団地」。本作が長編デビュー作となるファニー・リアタール&ジェレミー・トルイユの2人の監督は、2014年、映画を撮るためにパリを訪れ、団地の取り壊しに関する調査をしていた建築士の友人から「映像作品を撮ってほしい」と依頼を受けたのが始まりだと振り返ります。主人公は、宇宙飛行士を夢見ながら、ガガーリン公営住宅に一人で暮らす16歳のユーリ(アルセニ・バティリ)。2024年パリ五輪開催のため老朽化したガガーリン団地の解体計画が持ち上がり、ユーリは帰らぬ母との大切な思い出が詰まったこの場所を守るため、友人のフサーム(ジャミル・マクレイヴン)とディアナ(リナ・クードリ)と一緒に取り壊しを阻止するために動き出します。ユーリは友人の力を借りながら、エレベーターや配線を直していき、なんとか団地を守ろうと必死になります。ユーリにとってこの場所は母を待ち、自分にとって唯一の居場所。そして同じ団地に暮らす人々が、大好きだからこそ、守りたいという思いがとても伝わってきます。広場で仲間たちと踊り、皆で皆既月食を楽しむ。この場所で、ここに住む人々と共有されるかけがえのない時間が、ユーリにとっての青春なのです。トルイユ監督は「僕たちはすぐに、ガガーリン団地とそこに住む人たちの虜になった」と明かしており、住人たちのキャラクターに、その経験が反映されているのがわかります。本作は、監督たちによる短編の脚本を土台に、住民と物語を発展させ作っていったそう。カメラを持って何年もかけ、思い出を記録に残した監督たちは「団地での最初の思い出を聞いてまわったんだ。みんなのやりたいことや、今後の計画を聞いてすごくわくわくした」と、住人との交流について話します。移民や、幼い頃から団地で育った子など、いろんな背景を持つ人々に聞いた、将来の夢、そしてこれからの話から生まれたユーリというキャラクター。今はなきガガーリン団地は、ユーリとこの映画を通して、色褪せず世界中の人々に伝わっていきます。誰かにとって、無くなってしまった場所はあっても、その時、その場所で過ごした事実は、消えることはない。ガガーリン団地に花を供え、お別れをする人々の姿からは、この場所でそれぞれの人々が過ごしたかけがえのない時間が、これからもその人の中で愛おしく残っていくのものなのだろうなと感じました。「アメリカに行きたい」「自由で自分らしく入れる国だから」と想いを語るディアナに「夢はある?」と問われ、何も言わなかったユーリ。彼が本当に描いた壮大で素敵な夢をぜひスクリーンで見届けてください。

大和田茉椰